2011年12月9日金曜日

カジノ(賭博場)解禁-被災地にしのびよる魔の手⑤

さすらいのギャンブラー
映画「黒い賭博師」より





   6日に、テレビ中継の国会質問で、カジノ問題をとりあげたせいか、この三日間、本ブログへのアクセス数がふだんの数倍にはねあがり、とくに「被災地にしのびよる魔の手」シリーズが読まれています。
  8日、世界的な経済情報通信社であるブルームバーグも、「カジノ法案:超党派、震災復興・国際観光を武器に突破口を模索 」という記事を発信しました。

   日本の大新聞、テレビは、パチンコ関連企業などから巨額の広告料をもらっているため、ほとんどカジノ問題をとりあげようとしません。
   さすが世界のブルームバーグ。内容も関係者の取材にもとづいたリアルなものになっています。
  とくに、わたしの質問で記事を締めくくっているところに、知性を感じます。

   以下、記事そのまま。


 2011/12/08 16:56 JST (ブルームバーグ)

   カジノ実現を目指した動きが師走とともに、慌ただしくなってきた。民主、自民、公明など6党の超党派150人からなる国会議員は、早い段階での法案提出の可能性を視野に入れながら各党内での調整を急いでいる。治安悪化などを理由に反対している議員に対して、震災復興の財源や国際観光の振興を目玉に法案化を急ぐ考えだ。

   国際観光産業振興議員連盟(IR議連、通称:カジノ議連)の代表を務める民主党の古賀一成衆院議員は、11月29日に開催された民主の内閣部会で、臨時国会の閉幕日である9日までに法案を提出する意気込みを示しながら、「国際観光戦略の突破口をわれわれが開くのだという思いで、どんなことがあっても次期通常国会で通さなければならない」と語った。

   現行の刑法でカジノは賭博に当たるため法整備が必要。過去に何度も合法化に向けての機運が高まったが、失敗に終わっていた。今回は震災復興のための財源としての役割などをちらつかせながら、法案策定作業を推し進めている。

   世界に合法的なカジノがある国の数は120カ国以上。マカオは2006年にカジノ収入で米国を抜いて世界トップとなった。東洋証券のリポートによると、マカオの10年のカジノ収入は、前年比58%増の1883億パタカ(約2兆円)余りで、米ラスベガスの約4倍の規模にまで拡大している。 

   古賀氏は、「国際観光時代の娯楽として、カジノは世界で受け入れられている。先進国の中で唯一カジノを実現できていないのが日本だ。乗り遅れてよいのか」と、カジノ実現の必要性を訴える。カジノ議連で会長代行の自民党の岩屋毅衆議院議員も「せっかくの海外からの優れた投資をみすみす逃すことにつながる」と指摘する。

   今回の議連法案は、民間事業者がカジノを運営して得た収益の一部を国と地方自治体に納付し、東日本大震災の復興財源に充てることが目玉のひとつとなっている。カジノの法制化では、施行後2年以内に政府に対し具体的な法整備を義務づける。

   カジノ法案には鳩山由紀夫元首相もエールを送っている。11月のゲーム学会の会合で鳩山氏は、「ぜひ早期に法案を成立させ、特に3・11で大きな被害に遭った地域の復興のためにもこれを受け入れ、復興のための大きな財源にしようと考えている」と述べた。麻生太郎元首相も、「ラスベガスから今日では米国の多くの州にカジノが広がり、リゾートとして家族で遊びにいくような街をつくった。そういった発想が、今、日本でできるかが問われている」と語った。

   大阪商業大学の佐和良作教授などが行った09年のカジノ研究によると日本にカジノが開設された場合、市場規模は最大3兆4400億円、経済波及効果は最大7兆6600億円、潜在的雇用数は78万7200人。「日本に全く新しい産業を生み出し、極めて大きな経済効果が見込める。特に雇用面での効果は大きく、社会問題化している若者雇用にプラス」と、佐和教授は肯定的に評価する。

   半面、国際カジノ研究所の木曽崇所長は、日本に10カ所のカジノが設置された場合、「市場規模は1兆円から2兆円の間だろう」と語る。カジノ基本法が仮に成立してから、施設の実際のオープンまでには「地域選定、業者選定などもあり、早くて5年、7年程度は少なくともかかる」と言う。

   「バラ色だけではない」

   一方、カジノの法制化を反対する共産党の大門実紀史参議院議員は「他国の例をみても、ギャンブル依存症を大量に発生させ、犯罪を誘発することにつながることは明白だ」と指摘。「議連によるカジノ解禁の動きは許されるべきではない。まして、震災復興に絡めて法制化に動くことは恥ずかしい、おぞましい行為」と言い切る。

   依存症問題対策全国会議の事務局長を務め、多重債務者支援に取り組む吉田哲也弁護士は、カジノ法案提出の動きに対し「日本には既に相当数のパチンコ依存症患者がいるなかで、これ以上依存症患者を増やしてどうするのか。法案には明確に反対」と警鐘を鳴らす。

   レジャー白書2011によると、日本のパチンコ市場は、公営競技場や宝くじ市場とともに縮小傾向だが、10年の売上高は19兆4000億円とマカオを大きく上回る大きさだ。

   吉田弁護士によると、ある統計では約200万人近いパチンコ依存症患者が存在する。依存症の完治は困難で、周囲の人々を借金問題などで不幸にすることになるという。「法制化は決して経済面や雇用面などプラスだけのバラ色だけではないことを知って欲しい」と語る。

   沖縄県議会議員の時代から、カジノ設置に一貫して反対してきた糸数慶子参議院議員は、ギャンブルに付随する売春など周辺地域の環境劣化の問題を指摘。「まず被害に遭うのは若い女性。違法薬物やアルコールなどがまん延し、そこに暴力団が介入する隙が生じてくるはず。子供の教育的観点から受け入れられない」と懸念を示す。

   カジノ収入の一部を震災復興に充てるという考え方について糸数議員は、「復興財源のためのカジノ設置は本末転倒。政府はじっくりと国民と話し合い、必要ならば、消費税を上げるなどの正攻法で対処すべきだ。ギャンブルで財源をひねり出すのは、極めて不健全であり禍根を残す」と言う。

   高まる期待

   木曽所長は、「世界のカジノ業界関係者が、日本には高い期待を持っている」と指摘する。その理由は、「一定の経済規模でカジノをもっていないのは日本くらい。国内総生産(GDP)規模から考えても日本というのは最後に残されたラストフロンティアといわれる位大きな市場だ」と言う。

   被災地へのカジノ設置に向け活動している特定非営利活動法人(NPO法人)日本PFI・PPP協会の植田和男理事長によると、海外の代表的なカジノ運営会社は、米ウイン・リゾーツ、ラスベガス・サンズ、MGMリゾート、香港SIMホールデイングス、ゲンテイン・シンガポールなど。「各社とも日本のカジノ開設に興味を示し条件さえ整えば参入してくる可能性が高い」 

    カジノ運営会社のメルコ・クラウン・エンターテイメントのローレンス・ホー共同会長兼最高経営責任者は7日、ブルームバーグ・ニュースに対して、海外での事業展開に意欲的な姿勢を示し、特に「日本と台湾が対象になり得る」と言及した。ただ、前提条件として、政府のカジノ法整備が必要だとの認識を示し、今後の両政府の動きに注視するとコメントした。 

   一方で、観光コンサルティングを手掛ける観光文化研究所の大坪敬史社長は、マカオやシンガポールなど「世界でも有数の実力を持つようになったアジアの既存カジノとの競争で勝算は未知数だ」と言い、日本での事業の採算性に懸念を示した。 

    「カジノ解禁が日本を亡ぼす」の著者、若宮健氏は「ギャンブルは敗者の犠牲により成り立つもの。日本にはパチンコというカジノが全国隅々にまで浸透しており、カジノ解禁ならばパチンコへの対策が必要となる。放置しておけば日本はギャンブル漬になり亡国への道を歩みかねない」と指摘する。

    特別背任容疑で逮捕された大王製紙の前会長のカジノ放蕩は記憶に新しいが、カジノ議連の幹事を務める民主党の小沢鋭仁元環境相は、同事件が世論に一定のマイナス効果があったことを認めた上で、「今臨時国会への提出を決してあきらめているわけではない。粛々と手続きを進めるだけで、カジノ法案の必要な今の日本に必要なものとの認識し、成立にも自信を持っている」と話す。 

   民主の政策調査会副会長で、統合型リゾート・カジノ検討ワーキングチームの座長を務める田村謙治衆議院議員は2日、「法案は自民党と歩調を合わすことが大切」と述べ、与野党連携の姿勢で調整を急ぐ考えを示した。 

   ただ、共産党の大門議員との6日の参院予算委員会での質疑応答で野田佳彦首相は「特にカジノを積極的に解禁しようとする立場ではなく少なくとも政府においてはそういう立法は全く検討していない」と述べたほか、カジノ解禁についても、「検討するつもりはない」と言及しており、推進派には苦戦が予想される。