2012年1月18日水曜日

乱読のすすめ39-「無駄」がぼくたちをつくった


    面白くて面白くて、新幹線が東京駅に到着したのも気づかず、読みつづけてしまったのが「『大発見』の思考法」(山中伸弥・益川敏英、文春新書)です。

    「切れた手足がまた生えてくる可能性がある」「自分に移植するための臓器を、体外で作れるようになるかもしれない」…再生医学の夢のような可能性を秘めた「iPS細胞」の生みの親、山中伸弥さん。
   世界一注目される科学者となった山中さんですが、日本の研究環境の劣悪さに、うつ状態になり、研究をやめようと考えたことも…。

   そんな山中さんが、ノーベル賞物理学者益川敏英さんと、科学と人の生き方について、自由闊達に語り合っています。なんと、あの楽しいキャラクターの益川さんも、じつはうつに悩んだとか。
   









   山中  
   私は、人生には二種類あるとおもうんです。一つは「直線型の人生」。ある目標に向かってまっすぐ突き進む人生です。もう一つは、クルクル回転する「回旋型の人生」。いったんやりはじめたことでも「ダメだ」とおもったら違うことをやり、もっと面白そうなことがあればそちらに方向転換するフレキシブルな人生です。 

   益川
   日本人に「どっちの人生がいいですか?」と訊いたら、たぶん十人中九人が「直線的のほうがいい」と答えるでしょうね。…直線型の場合は、たった一度のつまづきによって、人生が大きく変わってしまうんじゃないかな。そこで挫折感を感じてよそに行ったら、それだけで自分が人生の落伍者のように感じてしまう。…もちろん、一つのことにずっと取りくむことも美徳だけれど、無駄を省いてすべてを合理性で突き詰めた生き方をしていると、いつか壁にぶつかるんじゃないかな。

   山中
   今は効率が最優先される社会ですが、一見遊びに見えたり、無駄に見えたりすることの中に、実は豊かなものや未知なるものがたくさん隠されているかもしれないですね。無駄なものを削ぎ落そうとして、そうした未来の種まで捨て去ってしまわないようにしたいものです。



※益川 敏英
1940年愛知県生まれ。名古屋大学理学部卒業、同大学院理学研究科修了、理学博士。京都大学名誉教授、京都産業大学益川塾教授・塾頭、名古屋大学KMI研究機構長。2008年「CP対称性の破れ」の起源の発見によりノーベル物理学賞受賞。同年文化勲章受章

※山中 伸弥
1962年大阪市生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了、医学博士。京都大学iPS細胞研究所長。世界に先駆けてマウスおよびヒトiPS細胞(人口多能性幹細胞)の樹立に成功し、再生医学に新たな道を切り開いた。2009年ラスカー賞受賞。