2012年8月2日木曜日

乱読のすすめ59-四つの幸せ

絵 鈴木周作











   神奈川県川崎市のN工業は学校などで使う「チョーク」をつくる会社です。
   いまから50数年前、専務だったOさんは、ある養護学校の先生から、知的障害をもつ二人の少女の就職をたのまれます。最初は断ったOさんですが、先生の熱意に押され、仕方なく雇うことにしました。

   Oさんは、ある法要の席で、禅寺の住職に聞いてみました。
   「うちの工場には知的障害をもつ15歳の少女が2人働いています。施設にいれば楽ができるのに、なぜ工場で働こうとするのでしょう」

   住職は、少し間をおいてから、答えました。
   「人間の究極の幸せは何だと思いますか。それは四つのことです。人に愛されること。人に褒められること。人の役にたつこと。そして、人に必要とされること。愛されること以外の三つの幸せは、働くことによって得られます。障害をもつ人たちが働こうとするのは、本当の幸せを求める人間の証なのです」

   Oさんは思いました。
   『かれらはなぜあんなに生き生きと幸せそうに働くのか。それは職場の仲間の役に立ちたい、役に立っていることが嬉しいからだ。かれらは社会のことを知らない分、世俗的な野望や邪念がない。だからこそ、私たちは、純化された幸せの光沢をかれらの中に見いだすのだ』

   以来、N工業は知的障害者の雇用を増やし、現在、全従業員74人のうち、55人が知的障害者、その半数は重度の障害者とのことです。

(「一億人に伝えたい働き方-無駄と非効率のなかに宝物がある」鶴岡弘之・PHP新書」より)