2012年11月7日水曜日

乱読のすすめ71-松下幸之助は泣いている


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しんぶん赤旗 11月3日
ビラに手を伸ばす通行人ら 大阪門真市










   いま、パナソニック、ソニー、NEC、IBMなど電機・情報産業の大企業が、13万人にもおよぶ首切り・リストラをおこなっています。
   やり方も、繰り返しの退職強要や突然解雇を通知して会社から締め出すなど、違法行為がまかりとおっています。

   11月2日、大阪労連や日本共産党などでつくる「電機等大企業のリストラから雇用と地域経済を守る実行委員会」のメンバーが、大阪府門真市のパナソニック本社前の駅で「退職強要をはね返せ」と宣伝行動をおこないました。
   しんぶん赤旗の記事によれば、同社ではたらく電機・情報ユニオンの組合員Aさんはマイクをにぎって、つぎのように訴えたそうです。
  「松下幸之助が、草葉の陰で泣いている」
 「昔、幸之助さんは『うちの会社は人をつくっています』と言っていた。首切りで人は育たない」

   昨日、本屋さんに立ち寄ったら、Aさんの言葉とおなじ、『松下幸之助は泣いている』(朝日新聞出版)という本を見つけました。
















   著者は、米国松下電器社長もつとめた岩谷英昭さん。
   岩谷さんは、本書のなかで、日本の電機大企業がサムスンなどアジア企業をふくめ海外企業との競争に負け衰退したのは、目先の利益をだすために、リストラを繰り返し、人材を海外に流出(とくにアジアの企業へ)させたことが大きな原因の1つだと鋭く指摘します。
 たしかに90年代後半から2000年代はじめにかけてのたびたびのリストラは、アジア企業が発展するタイミングと重なりました。日本で「いらない」と言われた人材が「ぜひうちにきてほしい」「私たちの先生になってほしい」と請われて、海を渡りました。そういう人たちがかつて働いていた日本企業を見返すために全力で働いたとしたら…今日の逆転もうなずけます。

   岩谷さんは本書でつぎのように述べています。
   「企業は人である。幸之助さんは自分が経営の先頭に立っていた時には絶対にリストラをしませんでした。1929年の世界大恐慌の苦境のときも、幸之助さんはこう言います。『うろたえては、かえって針路を誤る。そして、沈めなくてもよい船でも、沈めてしまう結果になりかねない。嵐のときほど、協力が尊ばれるときはない』。企業を嵐の中の船にたとえ、いたずらなリストラをいましめたのです。そして、他の多くの日本企業が従業員の整理解雇を進めていく中、幸之助さんの松下電器は雇用には一切、手をつけませんでした」
   「ところが、いつしかこういう幸之助さんの理念を守るよりも、早急に会社の財務状況を改善するのが先決だという風潮が定着していきました。『人件費は変動費だ』と言ってはばからない人が出てきます。つまり人材を『会社経営の安全弁』と考える経営です。そのためにリストラしにくい正社員ではなく非正規雇用従業員の割合を増やすという会社も多くなりました…」

  松下幸之助さんがおっしゃったとおり、企業は人です。人を粗末にして企業の未来はありません。
   ところが、目先の利益率にこだわり、人件費を削ってでも株価の維持に汲々としているいまの株価至上主義の経営。それが結局、自分で自分の首を絞めていることに、経営者たちもそろそろ気づくべきではないでしょうか。